アルファルド=ミルザム=リアーレス / Alphard Mirzam Liarece

   

 ヴァスタリアの現国王。戴冠してから十年も経っていないものの、卓越した剣技と溢れる行動力で数々の問題を乗り越えてきたため、民や臣下からの信頼は厚い。魔法は生まれつき一切使えないが、決して頭が弱いわけではない。料理の際に頑張って使おうとしたことはあるものの、何故かリンゴが爆発するなど、少々制御には難がある模様。
 国内でも稀有な銀髪であり(遺伝する要素は一切ない)、人が幼少期に行う属性判定では〝闇〟が出る。ヴァスタリアでは光と闇は人間が持つことのない属性とされているため、一時期は自身のことで思い悩んだりもしたが、今はまったく気にしていない。

 カーロ、ラネット、テイア(黒猫)という側近がいる。また、リューラという蒼の飛竜が専属でついており、幼い頃から仲の良い友人のような関係。主に似たのか底なしともいえる体力を持っており、普通の飛竜なら休息を挟む距離も一気に飛んで行ける。城内でアルファルドがリューラと一緒に歌っているのを侍女や騎士がよく見かけており、妃であるエステレラも音楽が好きなため、時々二人と一匹で集まって〝小さな音楽会〟を楽しんでいる。

INTRODUCTION
  • 広き世界に立つひとりとして

     一年のうち、太陽が一番長く世界を照らす日――王都フェグダの城で、小さな赤子が産声をあげる。
     妃に抱かれた子どもを、王は愛おしそうに撫でた。同時に、やがて遠い未来で王の座を継ぐ者として何があろうと守り抜き、その場所に相応しい人物として送り出せるよう育てることを強く決意したのだと、彼は王位を継ぐ直前に側近から聞かされた。

     ――お前の信じる世界を、拓いていけ。その剣で。

     前例のない災厄がもたらした、突然の別れ。心優しく、アルファルドにとって偉大な存在でもある父親・カイナスは、志半ばで崩御してしまう。彼は最後まで強く、強くアルファルドの手を握り、自分が為せなかったことを託して息を引き取った。
     望まぬ形で引き継ぐこととなった王という肩書は、初めはひどく重く感じられた。混乱する世界を導くために、何が必要なのか。何をするべきなのか。濁流のように流れてゆく思考が落ち着かず、丸二日眠れなかった時もあった。
     それでもアルファルドは屈することなく、民のために立ち続けた。彼は一人ではなく、支えてくれるものたちがいたからだ。

    『ごめんね。あなたが大きくなるまで、そばにいられなくて――今あなたがこれを読んでいるということは、きっと、カイナスのあとを継いで王様になったんだよね』
    『あなたには、ヴァスタリアはどう映ってる? 王子だった頃と、何か変わって見えているかしら』
    『アルファルド。もっと、あなたの名前を呼びたかったな。カイナスとたくさん相談して決めた、大切な名前』
    『本当は昔の言葉で〝孤独〟という意味があるらしいの。だけど、あなたの名前は〝守り人〟がくれた候補の中から選んだもの。そうして授かった名は意味が反転する、と代々伝わっているから、安心してね』
    『この先、苦しいこともつらいことも、数えきれないほどあると思う。でも、あなたは一人じゃないから。立ち止まりたくなったら、休みながら周りを見てみてね』
    『あなたが将来、守りたいと思う世界は――みんながいるから、そこにあるのよ』

     アルファルドの戴冠後、側近から手渡された硝子の箱。そこには、彼を産んで数ヶ月後に世を去った母・メヴィアの遺した手紙が入っていた。
     真っ直ぐに綴られた、母の想いと言葉。アルファルドはその箱に父の形見である砂時計も入れて、そっと自身の机の奥にしまった。
    「俺が守りたい世界は、みんながいるからそこにある。……詩が好きだったとは聞いていたけど、本当にそうみたいだな」
     何故か魔法を使えず、遺伝しないはずの髪色を持ち、人には扱えない属性を宿す自分を気味悪く思うことなく、信じて育ててくれた両親。そのあたたかさと優しさは、彼の心に強い光となって宿っていった。

     黎明はまだ遠く、広大なヴァスタリアには黄昏が迫っている。そんな中を巡る因果と宿命は、世界を描く物語へと繋がってゆく。その糸の一つは、既にアルファルドのもとにあった。
     現世の裏側に眠る伝承を紐解いた先で、アルファルドがこの地に残された最後の希望と出会うこととなるのは――少しだけ先の話である。

KEYWORD
  • ① 闇属性
     この世界に生きる人間は皆、生まれた時から地水火風いずれかの属性を備えている。ヴァスタリアの地にはその四つに加えて光・闇属性も存在するものの、人間でそれを持つ者はおらず、魔物や精霊のみ扱えるものとされている。
     しかしアルファルドは〝闇〟と判定され、何度行っても結果は変わらなかった。このことを知るのは彼本人と両親、側近であるカーロ、王宮専属の医師のみ。魔法が使えないことと関係があるのではないか、とも推測されているが、理由は誰にも分からない。
     民に不安を与えないよう公表されていないが、隠したままなのはよくないのではないか、とアルファルドは考えている。
  • ② 蒼の飛竜
     アルファルドは五歳の時、雨が降る城の中庭で、傷ついた一匹の子竜と出会った。飛竜のようで少々異なる雰囲気を持つその子竜を放っておけず、彼はすぐに城内へ連れ帰り、手当てをする。少ししてから目を覚ました子竜は、アルファルドをじっと見つめたのち、彼の後ろをついて回って離れようとしなかった。
     その後、アルファルドは父親を説得し、その子竜は王宮の飛竜として育てられることになった。リューラ、という名はアルファルド曰く「頭に響いてきた」とのこと。
     そんなリューラはアルファルドと共にぐんぐん成長し、今は城内の飛竜たちよりもかなり大きくなっている。そのため、普通の竜使いでは上手く乗りこなせず、アルファルドの戴冠と同時に彼専属となった。
  • ③ 流行りの冒険譚
     市井を知らずに王は務まらない――アルファルドは政務の隙を見つけて時々城下町へ出ており、一般人のふりをしてあちこち見て回っている。しかし、高身長かつ珍しい銀髪であるため、あまり堂々と表は出歩けないようだ。
     ある日、アルファルドは路地裏にある小さな本屋を訪れた。老夫婦が営むその店では、最近、百年ほど前に書かれた冒険譚が人気となっていると聞く。一冊買って帰った彼は、あっという間にその冒険譚に引き込まれ、一晩で読み切ってしまった。
    「勇者クライゼス……俺もこんな風に、世界を守っていきたいものだな」
     数年後、その名を苗字として持つ人物と出会うことになるのを、彼はまだ知らない。
  • ④ 救えなかったもの
     自ら現地へ赴き、指揮を執ることもあるアルファルド。戴冠する前は特にそうすることが多く、七年前の災厄時には、混乱に乗じて略奪を行う盗賊たちと交戦したことがあった。
    「おい、あれだけは絶対に奪われるな! 何人死んでもいい、必ず届けろ!」
     人の命を費やして築かれた、進路を阻む炎の壁。自爆する気で突っ込んでくる盗賊。そして、彼らがそうしてまで運んでいた小さな檻の中で震えていた、小さな精霊。
     その時の光景を、彼は未だに鮮明に覚えている。

仲間たちからの所感
  • エーヴィ:まさか、国王が直々に浮遊大陸へ来るとは。古代の呪文を読み解くのは容易ではなかったはずだ。これも、長い時間の中で築かれた、人間の叡智の賜物なのかもしれないな。……彼のような人がいれば、この世界の未来を託しても大丈夫だって思えるよ。
  • シアリィ:人間の成長って、すごいですよね……あんなに小さかったアルファルドさんが、今はわたしよりもこんなに大きいんですよ! 災厄の時は大変だったみたいですけど、師匠と一緒に乗り越えられたって聞いて安心しました。その時の恩もありますし、いつかわたしも助けになりたいなって思ってます。
  • レクト:王様、っていうからには威圧感のある人を想像していたけど……そんなことなかったな。僕から適当に扱われるとちょっと嬉しそうだし、不思議な人。でも、行動力があって、みんなから信頼されてる、っていうのは分かる気がする。
  • アイラ:(本編進行に伴い加筆)
  • ノーフェ:オリクトは王都と同じ大陸にあるけど、結構離れてるからあんまり交流はなかったんだ。一度だけ挨拶しに王都まで行ったけど、人の多さにびっくりしちゃったよ。王様に謁見してもっと驚いたけど……黒猫が側近にいるってどういうこと!? しかも喋るし!