忘れ形見の護り人

 数千年もの間、たった一人でヴァスタリアを守ってきた青年・エーヴィ。
 彼はある日、廃墟と化している故郷の地で、白百合の花が姿を変えた少女と出会う。

「わたしはシアリィ、といいます。しばらくの間、よろしくお願いしますっ!」

 小さな出会いが、大きな運命へと繋がっていく。
 その時の彼らは、知る由もなかった。      
 創世の頃に築かれた理、続いていくための犠牲の宿命――
 歪んだそれらが、世界の深層に眠る真実を導くことを。

◆ ◆ ◆

一次創作ファンタジー小説です。更新はかなりゆっくりめ。
何千年も生きてきた守り人の青年と、白百合の花だった少女の物語。

●Character Design&Illustration:木々ゆうき様

※念のための表記:R指定にならなければ二次創作(?)やFAはご自由にどうぞ。
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World ――世界観や設定メモ
Chronology ――ざっくり年表
Characters Evy Cialy Alphard Other ――登場人物メモ
SSS ――ト書きの短め会話文置き場

 
前日譚 -savificer-
    • 0-1 廃墟に咲く白百合

      ――W.T.2845 今年も、この日が来た。そう思いながら、時間という概念から切り離された故郷を訪れる。 青空には合わない、荒廃した地。絵画に描かれるほどの美しさだった景観はどこにもない。 かつて魔物によって蹂躙され、歴史から存在を消した小…

    • 0-2 魂廻る空

      ――W.T.2970 いつからだろうか。地上に生きる人々の間には、このような言い伝えが広まっていた。『このヴァスタリアでは、死んだあとに魂が空へと導かれるって話、またうちのおばあちゃんがしてきたよ』『前にも言ってたっけ。聞くたびに思うけど、…

    • 0-3 災厄の中の希望を求めて・前

       氷と焔、それぞれを帯びた二つの頭を持つ竜が周囲の気候を乱す。極寒と灼熱が短い間に繰り返され、近くの町は異常気象に見舞われている。 降り注ぎ続ける雷が、栄えていた地を容赦なく焼いていく。その地に生きる命も何もかもを奪わんとする勢いで。 跡形…

    • 0-3 災厄の中の希望を求めて・後

       白亜の神殿、と表現できる建造物の前には鏡の湖があり、その周囲には夜空に染まった花びらがひらひらと舞っている。空は黎明から移り変わることがないようで、常に、薄紫が混じった色が広がっていた。 エーヴィ、と名乗ったその青年に導かれて、アルファル…

    • 0-4 はじまりの約束

       ――R.W.?????? エーヴィの視線の先、地上は穏やかな空気に満たされていた。――もちろん、見えないところに潜むものはあるが、そういったものを取り除くのが役目なのだ、ということは分かっている。今日もそれを一つ、打ち倒してきたのだから。…

    • 0-5 終夜の果て、キミと見た黄昏

      「幻想を造り出す石、ですか」 浮遊大陸の書庫には、表に出ていない伝承や魔法の本に加えて、地上のことを記した本も多く並べられている。すべてを読み切るのに何年かかるのか、と思えるほどの量だ。 そこで数時間かけて調べ物をしていたシアリィは、その片…

    • 0-6 精霊さんと王子さま

       とある年の、太陽が長く空を照らした日。ヴァスタリアを導く王家に、新しい小さな命が生まれました。国王に抱き上げられたその体はとても小さいものでしたが、元気な産声を聞いて、王妃もほっとしたように笑います。 その男の子は、第一の継承者として誕生…

    • 0-7 この感情の名前、今はまだ分かりません!

      ※イベントで展示していた短め小話×3です。①二人の間にある距離の名は 王都の大通りには、大小さまざまな店が並んでいる。人々の生活を支えるもの、娯楽となるもの、シアリィにとってはまだよく分からないもの――等、ずっと眺めていても飽きないほどだ。…

本編/第一部 -in the predawn darkness-
    • 序 World No.180

       あれから、何年経ったのだろう。 永遠に身を刺すかのような怨嗟と嘆き、途切れることのない苦痛。それらから己を護るべく、自ら目を閉ざしてから何千、何万の時が流れたのか。 尋ねられる者も、知る者も、あの世界にはおそらくいない。彼らを除いては。 …

    • 1-1 リコリスは水沫のごとく

       眼前に迫る火球。川沿いの草花を焼きながら、焔に闇を巻き込んだ塊が宙を飛ぶ。 回避は間に合わない。直撃したところで少し火傷する程度だと判断したものの、目前の〝相手〟の正体が把握できていない以上、攻撃は下手に受けるべきではない――それ以上考え…

    • 1-2 星道での再会

       それは、遠い記憶を見ているようだった。夢なのか、幻なのか、判別はできそうにない。 黒い影が人々の住む場所を襲い、長い時間が築いた自然を壊し、世界は数年かけて破滅に飲み込まれた。再生を上回る速度でもたらされた破壊は、この星から生命というもの…

    • 1-3 夕明けの路と星雪の遺跡

       眠ると必ず見ていた光景があった。誰もいない暗闇の中心から始まる、昏い光景だ。 世界を覆う巨大な影。かき消されてゆく光を庇うように、自分は深淵の前に立っている。 体の内を駆け巡る力が、すべてを引き裂くような痛みを与えてくる。影が掠めるたびに…

    • 1-4 壊された枷・前

       低く唸るオーマ。舞う火の粉は昏い力を帯びており、火炎を直に受けることだけは何としても避けたかった。 先ほどの炎によって崩れ落ちた壁に水を纏わせ、大きめの盾の代わりとして補強する。その後ろには人が一人隠れられるくらいの隙間があった。「シアリ…