▼創造と破壊と
シアリィ:ふむふむ……世界をつくった神さまの使徒はふたりいて、まるで兄弟みたいで……。
エーヴィ:? 珍しいな、ここで読書しているなんて。何を読んでいるんだ?
シアリィ:えっと、なんとなーく目に留まったので!(あなたのことがちょっと気になって、伝承を読んでたなんて言えない……!)
エーヴィ:ああ、伝承がまとまった本か。確かに、ここに居続けるなら、知識として持っておいても損はないな。探究心があるのはいいことだ。
シアリィ:そ、そうなんです! 人間が記した物語にも興味があって。……あの、使徒って二人いたんですか?
エーヴィ:……。人間が記したものがすべて正しいとは限らない。けど、それについては合っているよ。確かに、女神を支える使徒は二人〝いた〟。
シアリィ:でも、今は師匠一人で……使徒と守り人は、同じ人で……?
エーヴィ:そうだな。大災厄で姿を消した破壊の使徒のぶんまで、女神に託されたヴァスタリアを守る。
その役目を担った創造の使徒……つまりオレが、守り人の名と一緒に使命を受け持ったことになるな。少しややこしいんだが。
シアリィ:破壊の使徒さん、いなくなってしまったんですね。
エーヴィ:大災厄が鎮圧されてから、少し経った頃だった。各地を探しはしたんだが、どこにもいなかったんだ。今頃、どこで何をしているんだか。
シアリィ:そう、だったんですね……。物語の中では、使徒は兄弟のようだった、ってありましたけど……喧嘩してしまった、とかですか?
エーヴィ:兄弟、か。仲が良かったかは、オレだけじゃ判断できないが……少なくとも、険悪ではなかったかな。
シアリィ:師匠がお兄さんなんですよね。お兄さん、って感じの師匠も見てみたかったです。
エーヴィ:今とそんなに変わらないんじゃないか。オレにとって、君は妹みたいな存在でもあるから。
シアリィ:い、妹、ですか。確かに、わたしにとっても、あなたはお兄さんみたいかも……。
そういえば、師匠は創造の力を受け継いでいるんですよね。壊すことは、あんまり得意ではないんですか?
エーヴィ:一応、オレも破壊の力は持ってる。あいつには敵わないし、ほとんど使うことはないんだが。
シアリィ:師匠が破壊の力を……なんだか、想像がつかないです。怖い力、という感じがしていたので。
エーヴィ:破壊という言葉には負の印象があるかもしれないが、それが何かを救うこともあれば、創造が命を奪うこともある。使い方次第だな。
シアリィ:なるほど……そうですよね。覚えておきます。
エーヴィ:万物は創造と破壊の繰り返しの中で生きている、というのが創世神の考えだそうだ。対だからこそ、切り離せないものなのかもしれないな。
(エーヴィが創造した鳥が空に飛んでいく)
シアリィ:……。
エーヴィ:シアリィ?
シアリィ:破壊の使徒さんとも、いつか会ってみたいなぁと思ったんです。色々お話しもしてみたいですし。
エーヴィ:…………そうだな、そんな日が来ることを願ってるよ。
▼名付け親
(浮遊大陸の神殿前にて)
シアリィ:アルファルドさんのお名前って、お星さまの名前なんですね?
アルファルド:知っていたんだな。本に書かれてたか?
シアリィ:はい、星の本を読んでいたら見かけたんです。すっごくアルファルドさんらしいなって思います。
アルファルド:俺自身、響きを含めて気に入ってるな。この言葉、意味が〝孤独なもの〟だと後から知って、驚いたことはあったんだが。
シアリィ:孤独?
アルファルド:ただ、母上曰く、守り人から授かった名前は、それが持つ意味が反転するという言い伝えが昔からあるそうだ。だから敢えて、なんだろうな。
シアリィ:あれ? 守り人、って師匠のことですよね。つまり、師匠がアルファルドさんの名前を?
アルファルド:そういえば、今まで気にしてなかったが……言われてみると確かにそうだな。
つまり、エーヴィが俺の名付け親ということに……?
エーヴィ:オレは候補を王室に渡しただけだよ。名付けたのが君のご両親であることには違いない。
(エーヴィが戻ってくる)
シアリィ:あ、師匠。遺跡の修復、もう終わったんですね。
エーヴィ:穴が空いた壁を直しただけだから、そこまで時間はかからなかったよ。
アルファルド:名前を選ぶのに迷った、と手紙にあったな。候補はそんなにたくさんあったのか?
エーヴィ:基本的に、歴代の王とは同じにならないようにしているんだ。書庫の本から選んで、七つくらい渡した気がする。
アルファルド:そこから父上と母上が選んでくれたのが、この名、というわけか……。
シアリィ:言葉に含まれている意味を踏まえて名前を選ぶって、素敵ですね。人間だからこそ、という感じがします。
▼得意なこと
エーヴィ:君の属性判定をしたんだが、結果が出たみたいだ。
シアリィ:わたしは地属性、ということですか。
エーヴィ:そうみたいだな。元々が花だからなのか……?
シアリィ:お花だったわたしにも、属性があるんですね。これなら魔法も使えるんでしょうか?
エーヴィ:それはこの先の修行次第だな。けど、素質はあると思うよ。
シアリィ:よ、よかったです。習得できるように頑張りますっ!
そういえば、師匠はどの属性になるんですか?
エーヴィ:オレか? オレはどれでもない、無属性になるな。
シアリィ:む?
エーヴィ:君やほかの人々のように、一つの属性で固定されているわけではない、ということだ。この世界に存在している魔法なら、だいたい使えるかな。
シアリィ:どれか一つだけが得意、ということではないんですね。
エーヴィ:得意、か……強いて言うなら、水が一番扱いやすい印象はあるな。理由までは分からないが。
(水の球が生成され、自在に形を変える)
シアリィ:水……つまり、わたしと師匠なら、植物を育てる場所を作りやすいということですよね!?
エーヴィ:え?
シアリィ:実は、師匠に一つ相談が……この前、地上で食べた〝イチゴ〟がとても美味しかったので、ここで育てられないかなと思って。
エーヴィ:なるほど、そういうことか。ここで栽培ができるか、確かめるのにも良さそうだな。
シアリィ:えっと、イチゴの種ももう用意してあるんですけど……。
エーヴィ:それならさっそく、育てる場所を作りに行ってみるか。
シアリィ:はいっ!