カテゴリー: 忘れ形見の護り人

会話文メモ⑦

▼創造と破壊と
シアリィ:ふむふむ……世界をつくった神さまの使徒はふたりいて、まるで兄弟みたいで……。
エーヴィ:? 珍しいな、ここで読書しているなんて。何を読んでいるんだ?
シアリィ:えっと、なんとなーく目に留まったので!(あなたのことがちょっと気になって、伝承を読んでたなんて言えない……!)
エーヴィ:ああ、伝承がまとまった本か。確かに、ここに居続けるなら、知識として持っておいても損はないな。探究心があるのはいいことだ。
シアリィ:そ、そうなんです! 人間が記した物語にも興味があって。……あの、使徒って二人いたんですか?
エーヴィ:……。人間が記したものがすべて正しいとは限らない。けど、それについては合っているよ。確かに、女神を支える使徒は二人〝いた〟。
シアリィ:でも、今は師匠一人で……使徒と守り人は、同じ人で……?
エーヴィ:そうだな。大災厄で姿を消した破壊の使徒のぶんまで、女神に託されたヴァスタリアを守る。
     その役目を担った創造の使徒……つまりオレが、守り人の名と一緒に使命を受け持ったことになるな。少しややこしいんだが。
シアリィ:破壊の使徒さん、いなくなってしまったんですね。
エーヴィ:大災厄が鎮圧されてから、少し経った頃だった。各地を探しはしたんだが、どこにもいなかったんだ。今頃、どこで何をしているんだか。
シアリィ:そう、だったんですね……。物語の中では、使徒は兄弟のようだった、ってありましたけど……喧嘩してしまった、とかですか?
エーヴィ:兄弟、か。仲が良かったかは、オレだけじゃ判断できないが……少なくとも、険悪ではなかったかな。
シアリィ:師匠がお兄さんなんですよね。お兄さん、って感じの師匠も見てみたかったです。
エーヴィ:今とそんなに変わらないんじゃないか。オレにとって、君は妹みたいな存在でもあるから。
シアリィ:い、妹、ですか。確かに、わたしにとっても、あなたはお兄さんみたいかも……。
     そういえば、師匠は創造の力を受け継いでいるんですよね。壊すことは、あんまり得意ではないんですか?
エーヴィ:一応、オレも破壊の力は持ってる。あいつには敵わないし、ほとんど使うことはないんだが。
シアリィ:師匠が破壊の力を……なんだか、想像がつかないです。怖い力、という感じがしていたので。
エーヴィ:破壊という言葉には負の印象があるかもしれないが、それが何かを救うこともあれば、創造が命を奪うこともある。使い方次第だな。
シアリィ:なるほど……そうですよね。覚えておきます。
エーヴィ:万物は創造と破壊の繰り返しの中で生きている、というのが創世神の考えだそうだ。対だからこそ、切り離せないものなのかもしれないな。
(エーヴィが創造した鳥が空に飛んでいく)
シアリィ:……。
エーヴィ:シアリィ?
シアリィ:破壊の使徒さんとも、いつか会ってみたいなぁと思ったんです。色々お話しもしてみたいですし。
エーヴィ:…………そうだな、そんな日が来ることを願ってるよ。

▼名付け親
(浮遊大陸の神殿前にて)
シアリィ:アルファルドさんのお名前って、お星さまの名前なんですね?
アルファルド:知っていたんだな。本に書かれてたか?
シアリィ:はい、星の本を読んでいたら見かけたんです。すっごくアルファルドさんらしいなって思います。
アルファルド:俺自身、響きを含めて気に入ってるな。この言葉、意味が〝孤独なもの〟だと後から知って、驚いたことはあったんだが。
シアリィ:孤独?
アルファルド:ただ、母上曰く、守り人から授かった名前は、それが持つ意味が反転するという言い伝えが昔からあるそうだ。だから敢えて、なんだろうな。
シアリィ:あれ? 守り人、って師匠のことですよね。つまり、師匠がアルファルドさんの名前を?
アルファルド:そういえば、今まで気にしてなかったが……言われてみると確かにそうだな。
       つまり、エーヴィが俺の名付け親ということに……?
エーヴィ:オレは候補を王室に渡しただけだよ。名付けたのが君のご両親であることには違いない。
(エーヴィが戻ってくる)
シアリィ:あ、師匠。遺跡の修復、もう終わったんですね。
エーヴィ:穴が空いた壁を直しただけだから、そこまで時間はかからなかったよ。
アルファルド:名前を選ぶのに迷った、と手紙にあったな。候補はそんなにたくさんあったのか?
エーヴィ:基本的に、歴代の王とは同じにならないようにしているんだ。書庫の本から選んで、七つくらい渡した気がする。
アルファルド:そこから父上と母上が選んでくれたのが、この名、というわけか……。
シアリィ:言葉に含まれている意味を踏まえて名前を選ぶって、素敵ですね。人間だからこそ、という感じがします。

▼得意なこと
エーヴィ:君の属性判定をしたんだが、結果が出たみたいだ。
シアリィ:わたしは地属性、ということですか。
エーヴィ:そうみたいだな。元々が花だからなのか……?
シアリィ:お花だったわたしにも、属性があるんですね。これなら魔法も使えるんでしょうか?
エーヴィ:それはこの先の修行次第だな。けど、素質はあると思うよ。
シアリィ:よ、よかったです。習得できるように頑張りますっ!
     そういえば、師匠はどの属性になるんですか?
エーヴィ:オレか? オレはどれでもない、無属性になるな。
シアリィ:む?
エーヴィ:君やほかの人々のように、一つの属性で固定されているわけではない、ということだ。この世界に存在している魔法なら、だいたい使えるかな。
シアリィ:どれか一つだけが得意、ということではないんですね。
エーヴィ:得意、か……強いて言うなら、水が一番扱いやすい印象はあるな。理由までは分からないが。
(水の球が生成され、自在に形を変える)
シアリィ:水……つまり、わたしと師匠なら、植物を育てる場所を作りやすいということですよね!?
エーヴィ:え?
シアリィ:実は、師匠に一つ相談が……この前、地上で食べた〝イチゴ〟がとても美味しかったので、ここで育てられないかなと思って。
エーヴィ:なるほど、そういうことか。ここで栽培ができるか、確かめるのにも良さそうだな。
シアリィ:えっと、イチゴの種ももう用意してあるんですけど……。
エーヴィ:それならさっそく、育てる場所を作りに行ってみるか。
シアリィ:はいっ!

会話文メモ⑥

▼神話のはなし
(はるか昔の話)
ルーシェ:人間って想像力がほんとに豊かだよね。
フェリシア:何かあったのですか?
ルーシェ:ほら、見てこの本。地上で見かけたから買ってみたんだけど、おれたちが色々描かれてるよ。
エーヴィ:こういうのは初めて見るけど、綺麗な絵だな。
フェリシア:私と思われる人物に、翼がありますね……。
ルーシェ:大丈夫、おれなんてツノ生えてる。
エーヴィ:どれどれ、オレは…………うん……もう少し、暖かそうな恰好がいいな。
ルーシェ:想像して描くのが大変なんだろうね。
フェリシア:ですが、見ていると私も何か描きたくなってきますね。
エーヴィ:フェリシア、絵が描けるのか?
フェリシア:一応は。いずれ、壁画に歴史を記したいとも考えているので……。
ルーシェ:壁画かぁ、いいねそれ。本より丈夫そうだし、大事なことはそこに残しておこうよ。
エーヴィ:それならさっそく、記せる題材があるんじゃないか?
ルーシェ:あっ、こないだフェリシアと兄さんが巨大な海の生き物を鎮めた件だね。
フェリシア:壁画に残すほどのことでしょうか?
ルーシェ:大活躍だったでしょ。特にフェリシアなんて、めったに地上に行けないんだからさ。貴重だよ。
エーヴィ:あの生き物が深海に帰ってくれたおかげで、一部の街同士の交易が復活したらしいな。確かに残しておいても良さそうだ。
フェリシア:そ、それでしたら……。少し試し描きしてみます。

※おおよそ三時間後

エーヴィ:フェリシア、大丈夫そうか?
フェリシア:は、はいっ!
ルーシェ:驚かすつもりはなかったんだけど、ごめん…………って……。
フェリシア:まだ途中なのですが、ひとまずここまでは……。
エーヴィ:これは……分かった、お団子だな? 港で売っていたはずだ。
フェリシア:え、ええと……人間、です。
エーヴィ:!
ルーシェ:分かってないな、兄さんは。おれなら当てられるよ――この部分、船でしょ?
フェリシア:あの……魚、です。
ルーシェ:!?
フェリシア:……。壁画、お二人に任せたほうがいいかもしれませんね。
エーヴィ:いや、オレのほうが描けないよ。人間を棒と丸でしか表現することができないぞ。
ルーシェ:まあ、壁画って抽象的なものが多いしさ。解釈は後世の人間にお任せ! って感じだし、いいんじゃないの?
フェリシア:そう、でしょうか?
エーヴィ:正解はないだろ、こういうのに。……間違えたのは申し訳なかったが。
ルーシェ:地上のどこかに置いておこうよ。何千年か後に出てくる解釈が楽しみだなぁ。

▼大人の飲み物
(星雪の遺跡への道中)
ディスタ:ふう、だいぶ冷えてきたな。戻ったら、とっておきの酒でも温めて飲むかぁ……。
エーヴィ:風邪には気をつけてくださいね。
ディスタ:おう……って、お前さんは平気そうだな。若いモンは元気でいいねぇ、オジサン羨ましいぜ。
シアリィ:え、師匠のほうが年上なんじゃ?
ディスタ:……。そうだった、数千歳は上だったな! ははっ、どこからどう見ても若い兄ちゃんだから忘れちまう。
エーヴィ:オレにとって、年齢はないようなものですから。一応、二十五の時に止めた形にはなりますが。
シアリィ:そうだったんですか? 初めて知りました。
ディスタ:それなら、お前さんも一杯どうだ? 女将も止めることはなさそうだしな。
エーヴィ:酒……は、あまり得意ではないので。気持ちだけ受け取っておきます。
ディスタ:あれ、そうだったのか?
エーヴィ:前に王都で知り合いと飲んで、ひどいことになったので……。
シアリィ:師匠はインシュしちゃダメですよっ! 動けなくなっちゃいますし、こないだなんて吐――
エーヴィ:し、シアリィ、そこまでは言わなくていい……!
シアリィ:わわっ、すみません!
ディスタ:……。
シアリィ:ディスタさん?
ディスタ:あー、なんというか……守り人、ってもっと人間味のない存在だと思ってたんだが。こうして話してると、そんなことなくてよかったな、って思うワケだ。
エーヴィ:そう見えるんですね。
ディスタ:違うのか?
エーヴィ:いえ。振り返れば、それがない時期もありましたが……今はマシになったんだな、と。
ディスタ:マシ……ねぇ。……そういや話が逸れちまったが、酒がダメなら名物のリンゴを使ったものがあるから、そっちを試してみるといいぜ。
エーヴィ:噂では聞いたことがありますが、そちらなら大丈夫そうですね。
シアリィ:わたし、イチゴの飲み物がいいです!
ディスタ:へへ、任せな。オジサンがおごってやるぞ!
シアリィ:ありがとうございます!
エーヴィ:(人間味、か。だいぶ前の自分なら、そもそもこうして人の手を借りようとしなかっただろうな……)

会話文メモ⑤

▼かつては当たり前だったもの
(本編から約百九十年前)
シアリィ:ふわぁ、眠くなってきました……ここにいると、時間がどれくらい経ったか分からなくなっちゃいますね。
エーヴィ:疲れたなら休んできていいよ。オレはここにいるから、気が向いた時にでも来てくれ。
シアリィ:ありがとうございます。……あれ、そういえば、師匠は寝ないんですか? わたし、あなたが寝てるところを一度も見たことがないような……?
エーヴィ:ああ、オレのことは気にしなくていい。寝なくていい体だからな。
シアリィ:え、そうなんですか!?
エーヴィ:オレが寝ている間に、地上で何か起こるかもしれないだろ? 備えておかないといけないからな。
シアリィ:そ、それはそうですけど……でも、それじゃあ師匠はずっと休めないんじゃ……。
エーヴィ:寝方も忘れたから、心配しないでくれ。
シアリィ:うう……そ、それじゃあ、すっごく疲れたときは言ってくださいね! わたしが頑張りますから!
エーヴィ:! ……分かった、その時は頼らせてもらうよ。
(シアリィが立ち去る)
エーヴィ:……。
小鳥:チチチ……。
エーヴィ:久々だな、あんなことを言われたのは。数千年は一人でここにいたから、不思議な気分だ。
小鳥:ピィ!
エーヴィ:っ、すまない。そうだな、君たちがいてくれたな。けど、未だに慣れないんだ……。
小鳥:ピピ……?

▼心配性
アルファルド:シアリィちゃん。それ、前から気になっていたんだが……もしかして、笛なのか?
(シアリィの腰あたりに下がっているものを見つつ)
シアリィ:えっ、笛? ……あ、これですね! 師匠はそう言ってました。演奏するものではないみたいなんですけど……。
アルファルド:吹くと大きめの、よく響く音が鳴るものだったな? み、三つも持ってるのか。
シアリィ:念には念を、って渡されたんです。何かあったら吹くものだ、って言われたので、すぐに手に取れるようにしました!
アルファルド:そ、そうか。用心するのは良いことだな!
シアリィ:はい! まだ鳴らしたことはないんですけど……使う時が来たら、絶対に師匠に聞こえるように吹いてみせます。
アルファルド:……。
(少し離れていたエーヴィのそばに行くアルファルド)
アルファルド:君……さすがに心配性すぎやしないか?
エーヴィ:あの子は純粋すぎるし、色々なものに興味を持つから、迷子になったりしないかが心配だったんだ。あれさえ鳴らしてくれれば、何かあったとしてもすぐに迎えに行けるからな。
アルファルド:(父親……)
シアリィ:?

▼意外な趣味
アルファルド:聖域の神殿内に竪琴があったが、あれは君が弾くものなのか?
エーヴィ:今はオレの所有物になるな。たまにそこの湖畔で弾いているんだ。
アルファルド:へぇ、そうだったのか。少し意外だったな。
エーヴィ:意外?
アルファルド:いや、悪い意味じゃないんだが……城に保管されている古い絵画では、女神が竪琴を持っていてな。まさか君の趣味だったとは。
エーヴィ:間違ってはいないよ。あの竪琴は元々は女神のものだった……オレが彼女から譲り受けたのは、その絵画が描かれた後になるから。
アルファルド:そういう経緯があったんだな。
エーヴィ:次元境界に浮かぶ星の大地から作られ、降り注ぐ月光が束ねられて弦になった、という伝説があの竪琴にはあるみたいだな。
アルファルド:! その話なら本で読んだことがあるぞ。確か、冒頭は……。
エーヴィ:〝君たちにも語ろう。死者へ捧げる旋律を奏でるもの――境界の地で生まれ、遥かな空へと魂を導く、終わりなき使命を担った者の物語を〟
アルファルド:それだ! 読んだのは子どもの頃なんだが、懐かしいな。
エーヴィ:そんなに知られているものだったのか?
アルファルド:結構有名だぞ? 俺は観に行けなかったんだが、少し前に、王都の劇場ではそれを題材にしたものが上演されていたらしいな。
エーヴィ:劇にもなっていたのか……。人の発想はすごいな。
アルファルド:……それにしても、そのうち、君の弾き語りを聴いてみたいものだな。今の伝説で、機会があったら聴かせてくれないか?
エーヴィ:長いから、きっと朝が暮れるな。それでもいいのなら、そのうち時間を作るよ。
アルファルド:構わないさ! そのためにも、頑張って政務を片付けないとな。

会話文メモ④

▼浮遊大陸、その物語
アルファルド:ここは随分広いんだな、地上から見た時よりも大きく感じるぞ。
エーヴィ:浮遊大陸全体のことか? 測ったことはないが……そうだな、端から端までだと百fc以上はあるんじゃないか。
アルファルド:それなら王都が十個は入るか……すごいな、そんなに広大な地が空に浮いていたとは。
エーヴィ:空の聖域以外にも、色々な場所があるんだ。オレと君たちが出会った場所に遺跡があったと思うが、あの中には屋内で星空が見られるところもある。
アルファルド:!?
エーヴィ:ほかにも雲海を切り取った湖や、星を吸い込んだような花畑とかもあるな。機会があったら案内するよ。
アルファルド:そ、そうか……そうかぁ……。
エーヴィ:ん、どうしたんだ?
アルファルド:小説に書かれていた場所が本当にあるなんてな、と思ったんだ。作者がここへ来たことがあるかのような描写だったが、ここ数百年の間、人間は来ていないんだよな。偶然なのか……?
エーヴィ:……それは、もしかして『夜明けの空仰ぐリコリス』のことか?
アルファルド:お、知っているんだな。
エーヴィ:少し前に、立ち寄った村の子どもから聞いたんだ。物語の舞台があまりにも浮遊大陸と似ているから、気になりはしたんだが……誰がどうやって書いたのか、調べても分からなかったな。
アルファルド:百年ほど前に書かれた物語、だったな。不思議なこともあるものだ。……ん? ということは、あの物語の主人公は君を参考にした可能性もあるのか?
エーヴィ:勇者クライゼス、か。……どう、だろうな。名前くらいしか、共通点はないと思うが。
アルファルド:名前?
エーヴィ:一応、オレにも苗字はある。それが〝クライゼス〟なんだ。
アルファルド:!
エーヴィ:それも含めて、書いたのは赤の他人ではないと思うんだが……まあ、悪い影響はないから、消すつもりはないよ。人々の心に残る物語を、なくすようなことはしたくないからな。
アルファルド:(消そうと思えば消せるんだな……)

▼壊れた時計
アルファルド:そういえば、君のそれは懐中時計か何かなのか?
エーヴィ:? ああ、これか……そうなるな。動いてはいないんだが。
アルファルド:動いてない……壊れてるのか。
エーヴィ:……。昔の戦いで、うっかり落としてひび割れてしまったんだ。知識もないし、直せそうになくてな。ずっとそのままさ。
アルファルド:でも、そうして持ち続けているということは、大事なものなんだな。……そうだ、王都に腕利きの時計職人がいるんだ。直したいと思ったら声をかけてくれ、紹介しよう。
エーヴィ:ありがたい話だが、これ、五千年は前のものだぞ?
アルファルド:見てみなきゃ分からないだろう? 案外、なんとかなるかもしれない。偏屈な爺さんなんだが、修理の腕前は一番だと思ってるよ。
エーヴィ:気を遣わせてすまない。
アルファルド:謝ることじゃないぞ。長い時間を生きてきた君のことだ、きっと、褪せていく記憶は俺たち人間以上に多いだろう。それを一つでも鮮明なまま繋ぎ止められるのなら、いくらでも手を貸すさ。
エーヴィ:アルファルド。
アルファルド:?
エーヴィ:お人好しすぎる、と言われたことはないか?
アルファルド:はははっ、そうだな! あるぞ。とはいえ、そういう君も十分、当てはまると思うが。
エーヴィ:う……否定はできないな。

▼〝弟〟
(はるか昔の話)
ルーシェ:ねぇ、フェリシア。おれ、ずっと気になってたことがあるんだけどさ。
フェリシア:気になっていたこと、ですか?
ルーシェ:おれと兄さんって、アヴァルスの手で、ほぼ同時に造られたんだよね。どうしておれだけ性別がないのかなって。
フェリシア:えっ、と……ごめんなさい。それは、私にも分からなくて……。
ルーシェ:そっか、変なこと聞いちゃってごめん。アヴァルスがいなくなっちゃう前に、聞いとけばよかったなぁ。
フェリシア:ただ、彼が言うには、あなたたちは〝因子〟があったそうです。なので、無からの創造ではない、とのことでしたよ。
ルーシェ:因子があった? なにそれ、どういうこと?
フェリシア:上手く説明するのが難しいのですが……エーヴィさんもルーシェさんも、ほかの生命とは異なり、なぜか存在の情報が世界の中にあった――ということになります。アヴァルスはそれを拾い上げて受肉させ、お二人を使徒として造り出したのです。
ルーシェ:ふーん……それじゃあ、おれや兄さんの元になった存在がどこかにいたのかな。で、おれはその時点でどっちでもなかったと。
フェリシア:おそらくは……。
ルーシェ:もう数千年は生きてるのに、まだまだ分かんないことばかりだな。命がどれだけあっても足りないよ、たぶん。

会話文メモ③

▼女神が遺した最後の唄
シアリィ:~♪
エーヴィ:君は歌うのが好きなんだな。
シアリィ:はいっ。師匠も、タテゴト? をよく弾いてますよね。
エーヴィ:これは…………そうだな。世界を守るために戦ってばかりじゃ、疲れてしまう――遠い昔、そう言って、フェリシアがオレに教えてくれたものなんだ。
シアリィ:そうなんですね。師匠のタテゴト、音が綺麗で素敵です!
エーヴィ:まともに弾けるようになるまでそれなりにかかったが、時間はたくさんあったからな。
     ところで、さっき歌っていたのは?
シアリィ:あの歌、どこかで聞いたことがあるような気がして……。もしかして、知ってるんですか?
エーヴィ:名前は分からないんだが……フェリシアが時々、冥界へ向かう魂たちを見送りながら歌っていたんだ。
シアリィ:え……も、もしかして、気軽に歌っちゃダメなものだったり……?
エーヴィ:……。(それと、破壊神との戦いのあと、彼女が消える間際にも……)
シアリィ:師匠?
エーヴィ:! いや、そんなことはないと思うよ。その時に必要なものだったなら、彼女はオレにそれも教えていっただろうから。
シアリィ:それならよかった、です……?
エーヴィ:長い、長い旅に出る彼らが、無事にあるべきところへ辿り着けますように。そんな願いがこめられた、祈りの唄だと言っていたな。
シアリィ:祈りの唄……。それなら――わたしも今度から、魂さんたちを見送りながら歌ってみようと思います。
     師匠、その時は、隣で弾いてくれませんか?
エーヴィ:それも悪くないな。分かった、付き合うよ。

▼服の着方
シアリィ:師匠~! ど、どうしましょう……。
エーヴィ:? 一体どうし――ど、泥にでも落ちたのか……!?
シアリィ:剣の修行をしていたら、魔法を放つ方向を間違えてしまったんです……! そうしたら、地面が一気にどわーって……。
エーヴィ:君の属性は地だったな、変な反応を起こしてしまったのか……。あっちに泉がある、そこで洗い流してくるといいよ。
シアリィ:はい、ありがとうございます……。
(泥まみれのシアリィが泉に向かう)
エーヴィ:攻撃の魔法を教えるのは早かったか……剣を使うなら補助魔法のほうがいいのか? あとで本を見てみるか……。

(数分後)

シアリィ:師匠、教えてほしいことが……。
エーヴィ:ん、何か困っ――――
(その場からエーヴィが姿を消す)
シアリィ:えっ! 師匠が消えちゃいました!
エーヴィ:(オレは今、君の脳内に語りかけている)
シアリィ:わわっ、直接声が!?
エーヴィ:(……風邪をひいてしまうから、泉から離れる時は必ず服を着るんだ。分かったな?)
シアリィ:そ、そのことなんです! わたし、服の着方? が分からなくて……どうすれば元通りになれますか?
エーヴィ:(……)
シアリィ:頑張って穴に腕を通したりしたんですけど、上手く着られなくて……。
エーヴィ:(状況を説明してくれ。オレが指示を出すから、その通りにやってみてくれるか?)
シアリィ:わ、分かりましたっ。とりあえず、今のわたしは一番下の黒いものだけ着てます!
エーヴィ:(…………)

エーヴィ:……ということが、百九十八年前くらいにあってな。一時間ほどかけて、どうにか着られたんだ。
アルファルド:た、大変だったんだな……。別の部屋から指示するのも難しそうだ。
エーヴィ:ただ、昔の自分を思い出してしまったよ。最初はこの服、どこからどう着ればいいのかまったく分からなくてな。
アルファルド:確かに、地上でもあまり見ない形をしているな?
エーヴィ:部屋にこもったまま数十分は出られなかったから、ル……片割れに「中で倒れてるのかと思った」と、心配されたこともある。
アルファルド:あ、それなら俺も経験あるぞ。子どもの頃、一人で着替えられる! って侍女たちに宣言して部屋に閉じこもったんだが、その日に着なきゃいけない礼服はちょっと装飾品が面倒でな。結局目を回して、部屋の真ん中で伸びてしまった。俺に何かあったのかと思った侍女たちの悲鳴は、今でも覚えてるよ……。
エーヴィ:な、何事もなくてよかったな……。……それにしても、人と同じ部分があったのだと思うと、妙に安心してしまうな。
アルファルド:? 何を言っているんだ、君は“人”だろう?
エーヴィ:…………。そう、だな。そうだったな、変なことを言ってすまない、忘れてくれ。
アルファルド:……?

会話文メモ②

▼珍しい色
シアリィ:アルファルドさんの髪の色、すごく綺麗ですね。わたし、銀色の人は初めて見ました!
アルファルド:ん、これか。確かに、この色の人はほとんどいないな。老人のそれともまた違うし……。
シアリィ:ほとんどいない……?
アルファルド:俺の知る限りでは、かなり少数だな。西大陸の、北方に住む部族が銀髪と聞いたくらいで……けど、俺の家系はその部族とは何の繋がりもないし、父上や母上、その親を辿っていっても遺伝する要素もないんだ。
シアリィ:不思議ですね……。銀髪といえば、前に本で読んだ、精霊さんの話を思い出します。
アルファルド:精霊の話?
シアリィ:はい。人を惑わす精霊さんなんですけど、髪が銀色で書かれていることが多くて……。確か、果ての森に住んでいる、ってなってました。
アルファルド:ん、果ての森……? 俺が浮遊大陸へ渡るために通ってきたところだな?
シアリィ:そ、そういえば、アルファルドさんは大丈夫だったんですね? あの森に住む精霊さんは人の心を読んで惑わすみたいですし、それで疲れた人間を食べちゃうなんて話も……。
アルファルド:そんな話は聞いていたけど、なんともなかったな。……うん、まだ妙なところが出てくるのか……?
シアリィ:妙なところ?
アルファルド:人間は幼少期に、生まれ持った属性の判定を行うだろう? 地水火風、いずれかに分類されるアレだ。
シアリィ:あ、師匠から聞いたことがあります。
アルファルド:公には伏せられているんだが、俺はその判定の結果が“闇”だったんだ。何かの間違いかと何回もやったらしい……が、結果は変わらなくてな。
シアリィ:えっ! 闇……!?
アルファルド:光と闇の属性は、人間が持つことのないものとされている。現に、城にある表の中には、それを持っている人は一人もいない。
シアリィ:そんなことが……。
アルファルド:別にそのことを悲観するつもりも恐れるつもりもないが、ずっと不思議だったんだ。おまけに魔法が一切使えないときた……十年と少し前くらいは、悩んだりもしたのを思い出すよ。
シアリィ:今は大丈夫、ってことですか?
アルファルド:もちろん。持つものが何だろうと、俺は王としてヴァスタリアを最後まで導くさ。
シアリィ:アルファルドさん……わたしたちもお手伝いできるように、頑張りますね!
アルファルド:ああ! よろしく頼む。

▼世界に生きるちいさきもの・2
エーヴィ:……。
子猫:にゃあ。
シアリィ:にゃー、こんにちは! お腹が空いてるんですか?
子猫:にゃっ!
シアリィ:かわいいです……かわいすぎます…………じゃなくて! あたたかいミルクですね、分かりました!
子猫:♪
エーヴィ:本当だ。ネコの言葉は分かるのか……。
シアリィ:うーん、ただ、なんと言えばいいんでしょう。言葉、というより感覚……?
エーヴィ:犬やほかの動物はどうなんだ?
シアリィ:試してみたんですが、ここまでは分かりそうになくて。
エーヴィ:(フェリシアとネコに何か繋がりはあったか……? いや、この子が関係しているかは分からないが……)
シアリィ:ネコさん、ここまで分かるなら直接言葉が聞いてみたいです……。そのうちお話できるようになるんでしょうか。……あっ!
エーヴィ:?
シアリィ:師匠なら、はっきり言葉が分かるんですよね? あのっ、こんなことをお願いするのも申し訳ないんですけど……訓練がしたいので、少し通訳してくれませんか……!?
エーヴィ:つ、通訳?
子猫:にゃーお。
シアリィ:わたしの心の中で、ネコさんの言葉を思い浮かべました!
エーヴィ:なるほど、分かった。……〝君たちはキョウダイかにゃ?(裏声)〟だな。
シアリィ:! す、少しだけ合ってました。〝彼はお兄さんかにゃ?〟だと思った、ので。
子猫:にゃ。
エーヴィ:今度は……〝その調子だにゃ(裏声)〟だ。
シアリィ:…………っ。
エーヴィ:シアリィ?
シアリィ:あの、師匠……。
エーヴィ:ん?
シアリィ:ふふ……っ、ご、ごめんなさい、師匠が真面目にネコさんの声を作っているのがちょっと、面白くて……すみませんっ!
エーヴィ:!

会話文メモ①

▼服選びも一苦労
シアリィ:わぁ、たくさん服が売ってます!
店員:いらっしゃい。当店は流行りのものも含めて色々揃えているから、ゆっくり見て行ってくださいね。……それにしてもお兄さんたち、このあたりでは見ないような恰好ですね? どこか遠くからいらっしゃったんですか?
シアリィ:はいっ、そうなんです。わたしたち、浮遊――
エーヴィ:コホン。……西大陸から、義理の妹と旅行に来ているんだ。王都の店が気になるようだから、のんびり回っているところで……。
店員:なるほど、旅行者さんでしたか。気になるものがあったら、遠慮なく声をかけてくださいね。
シアリィ:ありがとうございます!
(店員が別の客のところへ)
シアリィ:すみません、わたし、つい……!
エーヴィ:今度から気をつけてくれればいいよ。さすがに浮遊大陸から来た、なんて言えないからな……冗談だと思われるだろうけど。
シアリィ:そ、そうですよね……。気をつけます。
     それにしても、本当に人間ってすごいですね。こんなにたくさん作れるなんて。
エーヴィ:ここは王都では一番大きな服屋だからな。きっと君の好みに合うものもあると思うよ。
シアリィ:あっ、この服すごく可愛いです!
エーヴィ:形は良いな。でも、お腹はしまったほうがいいと思うぞ。
シアリィ:うーん、確かにそうですね……。風邪はひきたくないので、違うものを見てみます!
(いくつか持ってくる)
シアリィ:師匠! まずこれはどうでしょうか?
エーヴィ:暖かそうだが、君は剣を振るうだろ? もう少し動きやすいもののほうがいいんじゃないか。
シアリィ:それでしたら、これは……?
エーヴィ:動きやすさはあるな。肌が出る部分が多いのが気になるが……怪我をしやすくなるかもしれない。
シアリィ:こっちも見てください! さっき、街でこんな感じの服を着ている人を見かけて、いいなぁって思ったんです。
エーヴィ:首回りがちょっと開きすぎている気がするな……。ただ、全体的には良いと思う。中を変えられないか相談してみるか。
シアリィ:そういう方法もあるんですね! 服って可能性がいっぱいですね……。
店員:……。
  (あのお兄さん、相当心配性だなぁ……)

▼世界に生きるちいさきもの
エーヴィ:……。そうだったのか、向こうの木の実がなる樹木が減っている、と。
小鳥:ちゅん……。
エーヴィ:なんだって? 盗人たちの行った狩りで小動物が被害に……それはいけないな。対策を考えるよ。
小鳥:チチチ……!
エーヴィ:礼を言われることじゃない。オレの役目だからな。
シアリィ:師匠、今日も小鳥さんとお話ししていたんですね。
エーヴィ:シアリィか、戻っていたんだな。
シアリィ:はい、日課の素振りは終わりましたから! ……。
エーヴィ:?
シアリィ:……今でも不思議だなぁ、って思います。師匠が動物や植物とお話しできることが。
エーヴィ:そうか?
シアリィ:わたし、本当にびっくりしたんですよ! 言葉が通じる人がいるなんて、って感動したんですから。でも、最初からお話しできたわけじゃないんですよね?
エーヴィ:動物や植物の声を聞く――元々は、女神が担っていたことだった。彼女からオレが引き継いだ形になるな。
シアリィ:わたしにも声が聞こえれば、お手伝いできたんですけど……。女神さまはどこへ行ってしまったんでしょう? 前の破壊神との戦いのあと、行方不明なんですよね。
エーヴィ:……。
シアリィ:ネコさんなら、なんとなく分かるんですけど。今度試してみてもいいですか?
エーヴィ:え。ネコ?
シアリィ:はいっ。にゃーって言うと返してくれるんです!
エーヴィ:そ、そうなのか……。じゃあ、機会があったら見てみるか。
シアリィ:任せてください!
エーヴィ:(どうしてネコだけ……?)