IX

草笛の奏

※2020/12/29のファルコムオンリーにて、PDF無配として置いていた小話です。「楽しい思い出はたくさんあるけど、何より、あなたに出会えたことが一番嬉しかった。本当に、心からそう思うの。あなたとは女神としてではなく、フィーナという一人の…

空に届く花

※マヤの口調等、色々完全に捏造です 故郷よりも強く感じられる日差しは、午後になると更に眩しくなる。が、その陽光を反射する海原は美しく、つい足を止めて見入ってしまう。 空と海の青は混じりそうで混じらないまま、遠く彼方まで続いていた。「バルドゥ…

Re:Count

『一緒に過ごせたこと……楽しかった』 別れの言葉は言わなかった。最期にそれが伝えられれば、十分だった。 体の感覚が消えて、少し経った後。意識はまだ残っているが、周りは何も見えない。何もない。あの監獄よりも暗く冷たい空間の中に、マリウスは一人…

Re:Friend

※色々捏造。Ⅸの四年後くらいを想定 夜にもなれば冷え込む時期だとは思っていたが、星々が隠れてしまった灰色の空から雪がちらつき始めたのを見て、思わず苦笑する。「もうそんな季節になったんだな」 立場上、ロムンを流れ行く季節を意識していないわけで…

剣の記憶

【イースワンライ/お題:戦闘シーン】 ※捏造有 薄暗い旧坑道の中に、魔物の鳴き声が響く。「邪魔をしないでくれ!」 迷いがない。彼の戦いを見ていて、素直にそう思った。 振るっているのは錆びた剣だが、得物の心もとなさは微塵も感じさせない。的確に…

ピッカードの恩返し

【イースワンライ/お題:ピッカード】「あれ? こんなところにピッカードがいます」「本当だ、珍しいわね。脱走してきちゃったとか?」 つぶらな瞳に、丸々とした体を支える小さな足。それと、心を射抜かれる人も少なくはないという可愛らしい鳴き声。 ダ…

××年分の話をしよう

 その平原に咲いていた花は、彼、アドルが生前の冒険の途中で、何度か目にしたものだった。 懐かしいな、と、少し屈んで、彼は綿毛を見守る。やがて穏やかな風に乗って旅立つそれらは、一体どこで芽吹くのだろうか。 ――ダンデリオン。旅立ちの花。 アド…

その燃えるような色の名は

【イースワンライ/お題:アドル・クリスティン】 赤毛のアドル。その冒険家は、一人の少年に小さな灯を与えた。 病気を抱え、自由に走り回る事も出来ず、成人するまで命はもたないと言われているその少年が、精一杯生きようと思えたきっかけが“赤毛のアド…

君の旅、僕の路

※Ⅷ部~ネタバレ「君に頼みがある。……できれば一緒に行きたかったけど、この体はどうやら限界みたいだ」 これが必然なのか偶然なのか、そんな事は些細な話だ。どちらであろうと、僕が抱くものは変わらない。「でも、ここで終わるわけにはいかない。冒険は…

約束と遺志運ぶもの

※ゲームにない台詞足してます「さあ、アドル……全力で受けてもらうぞっ!!」 匿名で出された、シャトラールの遺品処理という依頼。それは、造り出されてしまった、本来存在してはならないホムンクルスたちの消去を意味していた。『ここにあと一体……残っ…

君と冒険する夢を見たんだ

 今日も、礼拝堂の天井は高い。どれだけ手を伸ばしても当然届かないし、掠める事すら叶わない。毎日のように眺めても変わる事はなく、移り変わる事のないものだ。 停滞したままの、ある意味作り物の空。我ながらよく飽きないな、と思う。上手く馴染めない上…